ガン!!
重く深い音が響く。
ほどなくバ~ン!と破裂音がした。
男は、一人厳冬の中でも凍ることのない神の宿る湖への峠道を上っている。
音は、斜面からの雪崩防止の鉄柵が発している。
時刻は、9時。
しばらくぶりに顔を出した太陽。
これほど雨の続くことなど稀な土地。
その恵みの陽光を受けて鉄柵がやっと目覚めた。
男は、安定したピッチでペダルを回す。
息の乱れはない。
長さを走る。
この日の男の目的は速さではない。
ゆっくり走ろうと決めていた。
安定した低速で距離を刻んでゆく。
ゆったり上って吐いてもそこは有酸素運動となる。
体に浅い熱を帯びる。
日の届かない道は、まだ肌寒さを覚える。
帯びた熱が冷気と融和する。
汗は出てこない。
快適な走行が続く。
時折車がモーターバイクが、背後から現れ疾走してゆく。
男はにやりとする。
男の足がエンジン。
短い自分の足でも十分にエンジンとして機能していることを誇る。
バイシクルその中でもロードバイクの性能を乗ってみて初めて理解した。
これほど固いサドルなのに。
あれほど窮屈そうな姿勢なのに。
どこまでも果てしなく走っている。
この峠をこれほど楽に淡々と登ることは、一朝一夕で出来はしない。
あと数年で70歳を迎えようとする男の歳では、短時間に筋肉を作り上げられない。
少し無理をして休ませる。
休ませて筋肉を復元させる。
その時以前の筋肉に薄皮一枚ほどの厚みができている。
徐々に膨らませてきた筋肉が出来て、この登りの快適さなのだ。
峠にたどり着く。
これから下り。
ここまで登ってきた者たちへのプレゼントがそこにある。
男は大胆にしかし慎重に急な下りを滑る。
下って湖の街で何かを食べよう。
砂利石を踏まぬよう。
亀裂にタイヤを喰われぬよう。
濡れた落ち葉でハンドルを持っていかれぬよう。
急な下りでは一瞬の見逃しは命とりとなる。
この緊張感もまたバイシクルの魅力となっている。
湖畔に着く。
一旦足を下ろして湖を見渡す。
この日は深い碧。
湖面は凪いでいた。
そこに恵庭岳を映す。
ほとりで竿を垂れる人がいる。
足漕ぎボートを滑らせる人がいる。
水を一口含む。
あと数キロ走ってエネルギーの補給をしよう。
午前8時スタートで支笏湖への峠越え。
そこから苫小牧へ抜けて漁港で海鮮丼の昼食。
岐路は、押し風の36号線を走る。
これほど長い距離の追い風は、久しぶりのこと。
休みなしであっという間の60km弱、
午後3時の帰宅となる。
すこし気取った文章を綴ってみた。
このおやじ、アゴハリ一族。
世に散らばり社会を斜めから見つめブツブツ文句を垂れ
世界の滅亡を防ぎつつ勝手気ままに生きている。
札幌市在住、顎が張っている、へそ曲がりで頑固。
斜めから見る習性は、周囲に疎まれる。趣味:ロードバイク/ クロス カントリースキー/ そして、コンサドーレ札幌のサポーター