2020年5月25日月曜日

退場宣言

こんな言葉が思い浮んだ。
「恋の鞘当て。」

武士は、左側を歩いたそうな。
右側歩行だと腰に差した刀の鞘同士を当ててしまう恐れがある。
当たれば「無礼な!」
ということで無益な争いが起きる。
そこを防ぐために左側歩行となる。

語源は、歌舞伎に有るらしい。
鶴屋南北の浮世柄比翼稲妻という芝居の場面。

舞台は、吉原。
桜の咲くころ。
強面こわもての不破半左エ門と二枚目の名古屋山三が織りなす芝居。
吉原一と謡われる葛城太夫を我が意に沿わせたいと思う不破半左エ門は、
彼女の恋男名古屋山三が邪魔。
ある日、吉原ですれ違う。
お互いが深編笠をかぶってはいるものの両者共あいつだな、と目星を付けている。
となればすれ違う時に威圧しようとする。

そして刀の鞘が当たる。
喧嘩になる。

なぜこの言葉が思い浮かんだかと言えば意趣返し
という言葉が24日の朝刊紙面に載っていた。

2020年5月20日水曜日

短編小説 ボンバーマン 其の五

明日は、お互いに仕事がある。
別れが惜しい。
幼児のように、脚をばたつかせてまだ居たいようと叫びたい。
シンデレラもこんな気分?

乗ったタクシーのドライバーさんが
「おめでとうございます。」と声掛けしてくれた。
何故諒子さんとのことを知っているのだろう?といぶかった。
直ぐに試合のことであることに気が付く。
ラグビーのファンらしい。
話が進みそうなので気分を害しないように
「ごめんなさい、疲れてしまいました。
 着いたら起こしてください。」
目を閉じた。
瞼の裏に今夜のデートの光景がフラッシュバックする。

0時に帰寮。
ベッドに潜り込む。
試合とデートの興奮が磯波となり身と心を揺らす。
強く押し寄せたと思うと気持ち良い余韻と共に静かに引いて行く。
いつの間にか深く眠りについていた。
そして朝がきた。
少しの気怠さを引きずりながら寮の朝食を終えて練習グラウンドへ向かう。
寮から徒歩10分の距離にある。
独身の僕は、職場や練習グラウンドまでの近さや
寮ならではの利便性から一人住まいの気が起きたことがない。

寮は一人部屋。

一人になりたければ部屋に籠ればいい。
寂しければ食堂で誰かを捕まえて無駄話もできる。
風呂の時間は、夜10時までと決まっているがシャワーなら24時間使用できる。
ガタイのでかい男達が5人入ってもゆとりある浴槽。
銭湯のような解放感が好きだ。

画像:AC写真より















2020年5月3日日曜日

短編小説 ボンバーマン 其の四

試合は、終了間際に逆転して辛勝。
秩父宮ラグビー場最寄りの青山のホテル宴会場で祝勝会。
大ジョッキを片手に盛り上がる。
勝利して仲間との打ち上げは、最上の喜び。
だが、この時は心ここに非ず。
僕は、諒子さんからメールで
慰労会のお誘いを受けていた

大学から続くチームメイトが、
「どうしたボンバー、乗り悪くない?」
感づかれたようだ。
「この後、妹と飯の予定で。」
咄嗟に妹を出汁に使う。
「おっ、由香りんか?」

大学時代の飲み会で何か面白い話をしろということで順に話をさせられた。
仲間にならいいだろうと思い妹の話をしたことがある。

それは、こんな話。
妹は、自分で「俺は、マムのお腹にチンチンを忘れてきた。」
というほど男っぽい。
その中でも極めつけを語った。

高校生の時の事。
家のすぐ前がバス停になっている。
バス登校時間のぎりぎりまで布団に潜り込んでいた由香。
母は、執拗なチャレンジに飽いてしまい最後は、
「勝手にしろ。」と起こすことを諦めた。
「その代わり弁当も作らない。
それでいいね。」
と最後通告した。
それでも妹は、寝ているほうを選んだ。
とはいうもののそこは、母親。
枕元に小さなジャーを置いた。
朝と昼の二食分が入っている。

妹の部屋の窓が打つたれる。
友達が文字通り叩き起こしてくれる。
ぎりぎりで起きる由香は、顔など洗わない。

やおら起き上がる。
まずジャーの中からご飯を掬い上げて口いっぱいに放り込む。
眠気を徐々に追い払うように咀嚼を始める。
そうしながら制服を着始め同時にトイレを済ませる。
ジャーは、教科書と一緒に大きなリュックの中に。
おかずは、別に拵えてある。
これもリュックに。

画像:写真AC















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