2015年10月29日木曜日

短編終章

短編続きVol.12

で、聞いて欲しい話ってなに?
弓は、大きくした目を都麻に向けた。

う~ん、
実は、おやじのことなんだけど。

中2の時亡くなった都麻のお父さん?

ああ

都麻のお父さんがどうしたの?

うちのおやじ、なんで死んでしまったか知ってる?

うちのお母さんと、都麻のお母さんと仲が良かったこと知ってる?

ああ、知ってる。

母から聞いたわ。
朝、気持ちが悪いといって起き上がって棚の上の薬箱を取ろうとしてたって。
そして、うっと言って首の後ろを手で押さえて倒れてしまったって。



都麻のお母さんは、咄嗟に脳卒中じぁないかしら、
動かしてはいけないって思って
そのままにして林内科に電話して往診してもらったけど、
結局くも膜下出血で昏睡のまま昼前に息を引き取ったって話だったけど。

その通りなんだけど、僕が不思議だったのはその前の晩のことなんだ。

前の晩なにがあったの?

おやじさぁ、酒飲めなかったんだよね。
全く飲めないわけではないんだけど飲むと次の日の悪酔いが酷くて
祖父母が家に遊びに来たときでも少しだけ飲むと後は、ソフトドリンクを飲んでいたんだ。
外で飲んできた時も酔って帰ったことなんか一度もなかった。

弓は、都麻から目を逸らさずじっと聞いていた。

それがあの晩に限ってすごい酔っ払って帰ってきて。
玄関框で寝てしまって布団まで僕も手伝って引きずって行ったんだ。
それが原因でくも膜下出血を起こしてしまったと思う。

そう、そんなに酔っていたんだ。
そのことについては母が聞いている。
父が安田さんから聞いた話を
母に話していたのをまた聞きしたんだけど。
安田さんは、その晩都麻のお父さんと一緒に飲んでいたって。


あのね、安田さんと都麻のお父さんは、親友付き合いだったんだって。

安田さんは、木材会社の人で
一緒によく仕事をしていたらしい。
山菜採りにもよく一緒に行っていた。

その安田さんに、40歳でやっと子供が生まれて、
難産するからお医者さんは、子供を諦めたほうがいい、
母体に危険があるって言われていたんだって。

安田さんのおばさんは、流産を2回経験していたんだって。
もうこれが最後の授かりだと思う
私がどうなってもいいから生む
といって周りを振り切ってのことだったらしいよ。
そして、無事出産が終わり女の子が生まれたのね。

そのお祝いで二人で酒を飲み交わした。
安田さんの喜びように、日頃控えていた父は、酒量を上げてしまった。

そういえば、父には妹がいたんだけれど小さい頃病気で亡くなっているんだ。
可愛い盛りでとても寂しい思いをしたと言っていたことがある。

母は、知っていた悔しかったのだ。
友を祝う酒で自分が死んでしまったことを怒っていたのだ。

安田さんを少なからず恨んでいたかもしれない。
だから僕たちには何も言わなかった。

言うと恨みや怒りが口に出てしまう。
20年の胸につっかえていた大きな棒がするりと抜けた。

そんな憤懣を胸にしまい込み僕たちを育て上げ祖母を看取った母。
最後は、他人のために命を落としてしまった母。
友人の喜びを分かち合い死んでしまった父。

都麻の疑念が誇りへと変わる。

レストランの外に銀泥の葉がキラキラと光っていた。






お終い







このおやじ、アゴハリ一族。
世界に散らばり社会を斜めから見つめブツブツ文句を垂れ
世界の滅亡を防ぎつつ勝手気ままに生きている。札幌市在住、顎が張っている、へそ曲がりで頑固。
物事を斜めから見る習性があり周囲に疎まれる。
趣味:ロードバイク/ クロス カントリースキー/ そして、コンサドーレ札幌のサポーター

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