2016年9月3日土曜日

短編小説 朝日の町で、夕陽の町で。

本日最後の曲です。
原曲名は、
Tie A Yellow Ribbon Round The Ole Oak Tree
日本では、幸せの黄色いリボンで発売されました。
1973年トニー・オーランド&ドーンの作品。





I'm comin' home, I've done my time
Now I've got to know what is and isn't mine
If you received my letter telling you I'd soon be free
Then you'll know just what to do
If you still want me
If you still want me
・・・・・・


私は、この仕事をさせていただいて12年になります。
とても長い時間でした。

皆さんのリクエストをいただき紹介して放送してきました。

皆さんからのリクエストカードには、本名が書かれているものもありますが、
全部頭文字だけで紹介させていただきました。

本日最後の曲は、私自身のリクエストです。
初めて自分が選曲をしました。
そして、初めて私の話をさせていただきす。


私は、次の週からこの椅子に座っていません。
今日で最後です。

私事のリクエストを許してくださいました所長さん、ありがとうございます。
そしてこの放送をお聞きくださいました皆さま、
リクエストくださいました皆さま、
お付き合いくださいまして本当にありがとうございます。

この曲を選んだ訳をお話します。

この曲は、
山田洋二監督が映画幸せの黄色ハンカチを
作るきっかけになったとも言われている曲です。

罪を犯し刑に服した男性が恋人の元へ帰る話です。

もし君が僕を待っていてくれるなら
僕たちの思い出のあの楢の枝に黄色いリボンを結んで居て欲しい。

と歌ったものです。
恋人は、待っていてくれました。

13年間、私も待っていました。

殺人を犯した彼を待っていました。
彼は、裁判で殺そうと思って殺したと証言しています。

衝動的ではなく、計画的な犯行だったと言いました。
憎かったからだと言いました。
僕を侮辱したからだと言いました。

私は知っています。
彼は、自分が受けた侮辱や、屈辱を
殺人まで犯して晴らそうとする人ではありません。

これ以上詳しくは、お話しできません。
が、彼は、私を庇ったんです。

明日彼は、この刑務所を出所します。
どんな真相が潜んでいたとしても、
彼は彼の犯した罪を償い、刑期を全うしました。
明日、人生の出直しをしようとしています。

ですから彼の犯行の訳を私が話す必要などありません。

最後に一つお詫びがあります。
13年前に私は、この町を訪れました。

たまたま街のFMラジオでアナウンサーを募集していました。
応募すると採用になりました。
そこでこの町に引っ越しをしたんです。
少しでも頻繁に彼に逢いたかったので引っ越ししてきました。

そして1年後刑務所で、刑務所内だけのリクエスト番組を開始することを知ります。
受刑されている方々の心のケアが目的でした。
私は、真っ先に手を挙げました。
幸いその仕事にも就くことがで出来ました。

当時の刑務所所長に彼とのいきさつは全部お話ししました。
所長は、「そのことは、私が知らなかったことにしましょう。」
「但し、面会に来るときは番組を受け持つあなたと判らないようにしてください。」
「放送の時は、タレント名を使ってください。」

彼がどこの刑務所で勤めを送っているかは、
警察へ問い合わせても教えてくれません。
彼からの手紙で知りました。
彼が服役してから半年後に手紙が届いたんです。
それでこちらの刑務所を知ったんです。

私は、すぐに面会に行きたいと便りを返しました。
彼は、手紙だけは書くのでもう少し時間が欲しいと返信して来ました。
時間が経過してゆく中で彼自身が罪とどう折り合いをつけてよいのか
まだ心が定まっていなかったのです。
すぐ面会に行けませんでした。

でも、いずれ面会出来ると思うとすぐそばに居たかったんです。

服役から1年がたち彼が面会を受け入れてくれる、と便りしてくれました。

面会は、受刑者の家族でなければ受け付けてもらえません。
内縁の妻も可能です。
事件前に私たちは、同棲していました。 彼と暮らしていた証明に住民票を、
彼からの手紙も持参しました。

面会には、ノーメークで凄い地味に装いました。
平凡なショートのウィッグをつけました。

月に2度の面会です。
お蔭で12年間ここの仕事を続けることも出来たんです。
申し訳ありませんでした。

この町は、オホーツク海が間近にあります。
ですから朝日がとても美しく見えるところです。

今日も、健康で明るく前向きに暮らそうと意欲が沸いてきます。
でもこの町を、明日出て行きます。
夕陽の見える町へ行きます。
二人で一日過ごせたことを夕陽に向かって
感謝しながら暮らしたい思っています。

農家をします。

自然と向き合い作物の育ってゆく様子を見つめながら
もし恵まれれれば、子供も欲しいと願っています。

明日の朝、彼は、満期で出所します。
仮釈放の打診もあったようですが
彼は、宣告された通りの刑期で努めたいと拒否したそうです。

平易な言い方ですが
この放送をお聞きくださいました皆さんの
ご健康をお祈りしております。

そして生きてゆくことの希望を捨てず
意義ある毎日を送っていただきますように
心より願っております。

関係者の皆々様、本当にありがとうございました。

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