2019年9月20日金曜日

偉そうな態度の奴と媚びた奴。

最終入院していた病室は、5階で東に面した窓を持つ。
全三つの部屋に移動した。
最初の部屋は、同じ階の同じ並び。
俺は、入口ドアのすぐ右スペースを宛がわれる。
すぐ隣に20歳台と思しき若い衆、そしてドアの左に50歳代の人。
俺は、人見しりする。
小人時代に道を歩いて知り合いに出会うことが怖かったくらい。
こんにちはと一言が言えない。
挨拶をしなければいけないことは、よ~く理解出来ているから
挨拶の出来ないことを大いに恥じていた。

長じてからは、反対にすっと入り込む術を身につけた。
か、胸のランプが点滅して今にも燃料切れで崩れ落ちそうな状態。
既室者に軽口の一つもほざいてすぐに馴染めるほど心身は充実していない。
「失礼します。」弱弱しい声を発しただけ。
後は、背中や足の勾配を調整して座りのいい角度のベットに
身を横たえて獏と時間を喰らうのみ。

昼の時間は、院内全体が活動している。
同室の二人もガンダムを作ったりTVを観たりと思い思いに過ごしている。
少なくても居ずらい空間ではなかった。

隣の若い衆が4日ほど退院してゆく。
入れ替わりで斜め向かいに俺と同じ年配者が入ってきた。
腰痛で歩行困難らしい。
事あるごとに「いてててて、」と弱弱しく悲鳴する。
そして看護師との会話の中で「イヒヒヒヒ、」と媚びた笑い声を出す。
俺は、嫌いなのだ。





















偉そうな態度の奴と媚びた奴、そしていかにも痛いと訴える奴。

直ぐにベット上で腰を伸ばす治療が開始された。
重りで両の脚を引っ張るアナログな治療。
30分は、引っ張りをしただろうか。
「どうですか?」看護師の問いに、
「痛くないです。」
余程この引っ張りが効くようだ。
1日7時間から8時間した方がいいと言われている。
トイレに行くときは、必ず看護師に見守りさせるようにとも言われている。
その時に枕元のナースコールボタンで看護師を呼ぶ。
「どうしましたか?」
「オシッコ~。」
あ”~っ、頭に血が上る。
いい年をしたジジィーがオシッコ~。
この野郎、幼児プレイか。

そのジジィは、ベッドで退屈を始めると一人立ち上がり
窓から外を眺めたりベットに腰かけている。
その時は、「いてててて、」がない。
伸ばしの治療で歩けるようだ。
ならば積極的にその治療を受けるといいはずなのだがこれが続けない。
引っ張ると痛いとほざいてやらない。

ただただ甘えているように見える。
そうこうするうちに空きになっていたベッドに俺より一回り上のジジィが入ってきた。
最初の夜消灯してから指でベッドのマットを叩く低い音が聞こえてきた。
昼間なら気にならない小さい音。
灯りが消え動きが止まり静寂する。
その中で指の打突音が俺の睡眠の邪魔をする。

なんと注意したらいいだろう。
相手を傷つけずにどう伝えるといいのだろう。
考えたが妙案が立たない。
看護師詰所に耳栓を乞う。
おいていない、「これでどうだろう?」
耳に入れられるほどの大きさの綿花を渡された。
無駄。
消灯から1時間半後にそれは止んだ。

翌日1階のコンビニで耳栓を購入したが音の遮断は、不完全。

くっそ~。
俺の怒りは、危険と書かれたタンクに滞ることなく溜まってゆく。
「イヒヒヒ」と打突音。
何とかしないば。
間違って引火するととんでもない爆発が起きそうだ。

鎖骨の手術が入った。
前夜4日は、一人部屋に移動。
何とも塩梅がいい。
そして手術を終えて二日目の6日金曜日。
「部屋に戻りましょうか。」と看護師。
「この部屋にいられる限度は?」
「8日の日曜日までです。」
「そこまで居させて。」
「土日は、人の手が少ないので出来たら今日がいいのですが。」
「元の部屋は、打突音で睡眠不足になるから少しでもここにいたい。」
「解りました。」

で一旦は、引き上げて行った。
少しして多分看護師の元締めさん、
「今空いて誰もいない4人部屋はどうですか?」
なんと素敵な提案をしてくれた。
「今すぐ移ります。」
ニッコニコだ。

こうして手術後の一週間を快適な時間を過ごすことが出来ましたとさ。
めでたし、めでたし。

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