大小トイレの回数も聞かれる。
浦島太郎現象が体温計。
各ベットに装備されていた。
テルモ製品だった。
デジタル表示になっている。
幾ら浦島現象とはいえ
デジタルであることを驚きは、しない。
驚いたのはスイッチがない事。
ケースから抜くと、さぁどうぞとゼロにリセットされて臨戦態勢をとる。
ケースに入れるとケースの窓からOFF状態が確認できる。
どこかにスイッチがあるはず、どこ?
本体を矯ためつ眇すがめつ舐めるように観察してみる。
それらしいものは、なし。
ケースのほうは?
内側に薄い板状の黒いものが見える。
これだな。
板磁石が内張りされている。
と言うことは、本体のこの位置にそれに反応させる磁石が内臓されているのだろう。
では、本体を表裏反対で入れたらON,OFFの作用はするのか?
した。
それならケース外からなら?
しない。
磁場強度は、ケース内外では大きく違うということになる。
磁力の伝わり方は、間に挟まれた素材によって違ってくる。
空気であれば距離で違ってくるだろうし。
などと同室の室工大生と小さく盛り上がっていた。
「電気の場合は、伝導率で比較できるよね。」と俺。
「単純に伝導率と言えば電気だけに限らず熱も伝導率で比較しますから、
磁力も伝導率を使うのではないでしようか。」
ちと調べてみた。
電気だと電気抵抗、磁気だと磁気抵抗。
抵抗は、素材やその時の環境などの違いでその伝導率に違いがある。
俺の知的水準では、この程度の理解で十二分に満足なり。
体温計にスイッチの見えないことに感心をしていた。
今日の主題、濃密で怪しい世界への入る。
ある日の朝、病室から。 |
入院の翌日病院の栄養士なる人が訪問した。
年齢や身長、体重を考慮して1日のカロリーは、1800kcalにしますがいかがです?
ベッドの上にただただ座るか寝るか。
普段の食事から比べると少ない気がした、
が入院していて太るのは、いかんベと思い承諾。
そのおり週一回麺の回数を増やしてくれる段取りが付いた。
しかし、20日のなかで麺は、たった2回だけ。
それも一回は、スパゲッティ。
これは、俺の中では麺類に入らない。
結局狸うどんを一回供してくれただけ。
説明だけでなく入院中の食事の案内という紙も手渡されている。
その中に昼食に麺を選ぶことができます。の項目にチェックも入っている。
林家彦六さん風で「ばかやろう~~~。」
通常のお昼は、限りなく100%近くうどんや
季節によりその兄弟の冷や麦、そうめんを食す。
大好きなのだ。
高級である必要はなく極々廉価な乾麺でよい。
気が向けば手打ちもする。
それを茹でて一度冷水で締めてから再度温めて丼ぶりに。
麺は、冷水で絞めることを手抜くと仕上がりに大きな差が付く。
丼には生卵を入れ置き、麺の上に海苔と刻みネギを乗せる。
そして麺つゆをかけて丼底の生卵と同化させ麺にからめる。
この麺つゆは、ずっと桃屋の黒瓶を使っていた。
今年5月だっただろうか、その黒瓶を見て
「手作りしてみようか。」と思い立つ。
昆布、干しシイタケ、鰹節を醤油、味醂、酒に一晩漬けて火を入れる。
アルコールが飛べば出来上がり。
黒瓶に注ぎ入れ蓋をする。
徐々に冷えたつゆは、凝縮して内圧が下がる。
蓋が音を立てて窪む。
一度高温で殺菌されているし瓶の中は、
減圧されているのでたとえ菌が残っていたとしても生きてはいられない。
蓋で密封されているので常温で保管可能となる。
これで完了。
5本と少しを作る。
一度に40日ほど使用できる量を作っている。
退院してからうどん再開。
最初の日は、肋骨への負担を考慮し啜るを控えた。
昨日の昼は、啜るを試してみた。
音を立てて啜ることが出来た。
麺を手繰って啜る。
つゆに凝縮された昆布が、干しシイタケが鰹節が各々開放されて踊り出す。
三つの香りが乱舞を始めたかと思う間もなく
それぞれの旨味が味覚神経束を伝い大脳に届く。
濃密で怪しい世界が脳内に広がる。
そう麺を啜ることは、和食の出汁を
十分に楽しむための行為であることを69歳にして初めて理解した。
薄味病院食で味覚に鋭敏さが戻ったのだろうか。
知らなくても生きてきた。
識ると楽しい。