2019年3月10日日曜日

超短編小説 ポーカー

鳥人と化した男
どれだけ気持ちが高ぶっていたのだろう。
跳んで、飛び上がろうとした。
その上にある渦の中に。
歓喜の渦の中に飛び込もうとした。
跳んで飛び上がった。








銀色の陸のクジラ
札幌ドームで
披露された
ポーカー






飛び越えた壁の高さは、3mに近い。

空の中で羽がないことに気が付いた。
懸命に腕でもがいてみた。
足を泳がせてみた。
跳んだエネルギー以上の浮力は、生まれてこない。
俺は、鳥ではなかった。
コンクリートの床が急激に迫ってくる。

ならば豹に戻ろう。
しなやかなネコ科の大型動物、豹になる。
そうだ、俺は豹だった。
俺は、豹。
人の姿を借りた豹。

俺の潜在能力を2万人の前で披露した。
観客は、歓喜し悦の大きな渦を作っていた。

コンクリートに全身を叩きつけられる寸前に両の足を着地させた。
飛躍して落下したエネルギーは、消化されていない。
次に手を着けた。
そして膝も着けた。
そこは、冷たいコンクリートの床。
なのに優しく柔らかに暖かく感じた。
胎児の自分が蘇る。
心地よい。
2万人の手の中だった。
この世ので最高の幸せを味わっていた。
誰かが呼びかけている。
俺の名前を呼んでいる。
俺は、目覚めた。
アンデルソン・ジョゼ・ロペス・デ・ソウサ、これが僕の名前。

2019年3月9日、北海道コンサドーレ札幌のホーム第一戦。
武蔵が譲ってくれたPKで俺は、開放された。
窮屈な縛りから解放された。
野に放たれたしなやか肢体を誰も止めることはできない。
イタリアでは、ポーカーと言う。
カードゲームの4カード。
俺は、俺を認めてくれたこの寒い街札幌シティのチームで
ポーカーと呼ばれる1試合4得点の1番目の選手になった。

ポーカーは、J1リーグ通算では、233人目。
コンサドーレ札幌では、初めての選手となった。

2019年3月5日火曜日

小説 Lugh ルー 4.

約束の時間にショップ到着。
ゴリは、すでに来ていた。
サイクルジャージは、ショッキングイエローのコンビネーション
少し照れ臭そう。
シューズもヘルメットもグローブも黄色
ヘルメットにピンクのリボンは、・・なし。
当たり前だよね、僕の妄想だもんね。
パンツは、黒短。
スポーツグラス意外は全部新品。
輝いていた。

「ゴリ、格好いい!」
「そうだべか?
でもチョット恥ずい。」
まんざらでもない顔をしている。

傍にアクセサリーを取り付け終わったバイクがある。
ギァチェンジとピンディングの着脱を教えてもらったという。
ハンドルバーテープも黄色。
僕のバイクに比べるとこじんまりして見える。
サドルの後ろに小型バックもついている。
「中に何を入れた?」
「スペアチューブとタイヤレバー、
それからパンク修理セット。空気入れは、フレームにセットした。
「パンク修理をしたことはある?」
「ない」
「練習しておいた方がいいよ。
今日適当な場所で1回やっておこう。」
「ありがとう。」
今日は、走りやすいルートにしようか。



















道端の雪が完全に溶け切れていない場所が点在している。
国道36号線は、雪がないけれど砂利の清掃ができていない。
冬に撒かれる滑り止めの粉石が道の端に追いやられて溜まっている
春になると順次清掃回収されて、
埋め立てしたり乾燥させて再利用したりする。
そうだ西輪厚がいい。

2019年2月18日月曜日

小説 Lugh ルー 3.

「盛岡、三打席目に勝負させたのはなぜだ?」
「はい、監督は白石のリリーフを見たいのだろうと思いました。」
監督は、軽くうなずきながら「それで」と次を促す。
「2打席で右打者でも通用するだろうと思いました。
では、勝負させたらどうなるのだろうかと。
単純な興味です。」

あれ?
この監督は、選手を叱らない?
淡々と話を聞いている。
推薦の面接の時に言っていた
「選手の自主性を大切にしたい」って。
本当のようだ。

「白石、何で駒沢の初球にチェンジアップを投げた?」
「はい、7~8分の真っすぐをより速く見せるためです。」
「では、最後のワインドアップは、なぜだ?」
ありのままを話そう。
「三振を狙いました。」

駒沢先輩が僕を睨む。
でも表情は、柔和だ。

「駒沢、ホームランの球はどんなだ?」
「はい、それまでの球に比べて素直な球筋でした。」

監督は、一通り聞き終えてから
「白石のキャッチボールを見て伸びのあるいいボールだった。
リリーフ場面で見たくなった。
だからそのままの7~8分の指示をした。」
「それが右バッターに対してどうか?も見たかった。
盛岡の言う通りだ。」
「まだ本調子ではないが4番をぶつけてみた。」

「白石は、シーズンが始まったばかりなのにいいピッチングをした。」
「初球のチェンジアップで後の真っすぐを早く見せる、もいい。」
「盛岡も白石とは、初めてなのにあれをよく後逸しなかった。」
「はい」と小さく応える盛岡先輩。
「三打席目の勝負は、俺も見たくなっていた。
多分白石も駒沢もそうだろう。」
二人は応えた「はい」


















「盛岡なら間違っても試合であのサインは、出さないだろう。」
「はい」と盛岡先輩。

「最後の投球は、白石の力みだ。
力みは、禁物だ。
今一度胸に刻んでおけ。
そして実際のクローザー場面では、強い緊張が生まれる。
全国大会や国際大会を経験しているとはいえ高校野球は、もっと緊張が高まる。
今日の投球を見る限り白石は、肝が太そうだ。
君ならこなせるだろう。
だが、緊張から生まれる力みをどうしたら解消していけるか、を見つけるように。」

「はい」

「駒沢は、逃さずにそこをよく打った。
課題の体重移動が小さくなってる。
バットの押し出しも最短で捉えていけるようになっている。
これなら変化球にもついていけるようになるだろう。
更に上げてくれ。」

「はい」

「盛岡は、さらにキャッチング精度を上げるように。」
「はい」
「解散」
「ありがとうございます。」

2019年2月4日月曜日

小説 Lugh ルー 2.

目覚まし時計をセット。
寝たのは、11時。 
鳴る4時30分寸前に目覚める。
セットした直前に起きる、と自分に暗示をかけている。
できた時は、気持ちいい。
大きく伸びをして急ぎで支度を始める。
「おはよう」
「おはよう」
「自分で起きてくるのが偉いね。」
母が褒めてくれる。
「お兄ちゃん二人は、何度も起こさないと起きてこなかったしょ。」
好きな母にあまり世話をかけないようにしている。
恥ずかしいのでそうは言わずに「ああ」と応じた。

朝食を済ませて歯磨きをして、
母が用意してくれたおにぎりを40Lリュックに詰める。
「今日は、土曜日だから早く帰れるんでしょ?」
「うん、だぶん、行ってきま~す。」
「行ってらっしゃい。」

右膝下内側がギアのオイルで汚れるので
野球パンツのストッキングを膝までたくし上げる。
自転車用のグローブをはめる。
ヘルメットをかぶる。

車庫の内壁にかけた自転車を下ろす。
バイクに跨りスタートさせた。
身体が目覚めるまでは、抑えて走る。
5時少し過ぎに日の出の時間。
















まだ日は、登っていないけれどすでに辺りは、明るさを取り戻している。 

東空の茜色が徐々に濃くなる。
紫色の帯が狭くなる。
少し肌寒い。
ユニフォームの上にウィンドブレーカーを着る。


ゴリは、もう先を行っているのだろうか?

羊ヶ丘通りホーマック前交差点を右に折れる。
ここからは、ごくなだらかな登り基調。
白旗山競技場へつながる交差点辺りで
ウィンドブレーカーの前を開けて後ろ腰に回す。
母に裾に小さなマジックテープを縫い付けてもらった。
簡単に留められる。

この辺りから徐々に斜度が付く。
まもなく市立真栄高校が左に見えてくる。

この道は、清田から南区に抜ける裏道。
普段でも交通量は、少ない。
脇道も信号も少ない。
走りやすさからかロードバイクやランニングの人がよく利用している。
小さな峠があるのも利用者の多い理由だと思う。

歩道を走る人がいた。
「おはようございま~す。」
抜き際に挨拶をする。

「おはようございます。」
完全に長距離選手の体形。
スリムで足も細い。
足の運びは、軽やか。
束ねた髪が左右に揺れている。
胸を張りスライド走法。
見るこちらも気持ちがいい。

2019年1月25日金曜日

小説 Lugh ルー 1.

空が青い。
そして高い。
どこまでも青く、どこまでも高い空。
200台のロードバイクが連なる。
タイヤの滑走音。
チェーンの回転音。
ラチェットの音。
音は、塊となる。
車列は、音を残しうねり、流れて行く。
その先に雪を頂いたアルプスの山々が見える。

国旗の手旗を振る人。
チームカラーを纏い全力で並走する人。
キャンピングカーの上に自転車のオブジェを作り走りをまねる人。
沿道の観客は、思い思いに贔屓の選手やチームに声援を送る。










僕は、その中にいる。
ロードバイクの集団の中にいる。
世界最高峰のロードバイクレース、
ツールド・フランスの舞台にいる。






僕は、小学生ジュニアから高校生までピッチャーとして順調に野球生活を送っていた。
中学では、全国優勝手前まで駒を進める。
その実績からU-15日本代表選手としてワールドカップにも出場した。

道外の複数有名高校から推薦打診を受けた。
出身地で甲子園を目指したかった僕は、地元札幌の高校を選んだ。
入学の時、僕の身長は、188cm。
体重78kg。

小さい時から背が高く体のバネがあった。
ストレートが武器。
というよりストレートしか投げない。
しなるフォームで投げ下ろす。
これに緩急をつける。
同年代で僕の球をヒットすることの
できる選手は、ほとんどいない。
 肘や肩に負担のかかる変化球は、いらない。
「骨や筋肉が出来上がるまでは、ストレートだけにしておきなさい。」
父にもそう言われてトレーニングしてきた。

高校新入生のあいさつ。
「白石 亨蕗:とおるです、よろしくお願いします。」
帽子を脱ぎながら一礼をした。

少し空気がさざめいた。
本当にあいつが来たんだ、という驚き。

全国的にも強豪として名が知られている私立札幌光禜高校。
野球部は、まだ高校が中学校だった時代から100年を超す歴史がある。
夏の甲子園と呼ばれる大会、
全国高校野球選手権大会出場回数は、全国でも屈指ながらいまだ優勝がない。
最高順位は、ベスト4。
決勝戦にすら一度も進めていない。

U-15でNO.1ピッチヤーと呼ばれた白石が入部してきた。
長身のトオルは、中学生の中だと大人と子供くらいの差があった。
クラスが1段上がった高校生でもやはり群を抜いていた。
立っている姿に下半身の強さを見て取れる。
しなやかさと体幹の強さ。
前からは、細身に見える。
横から見ると臀部盛り上がっている。
そして腰が高い。

他を圧する何かを持つ。
目が人を射ているわけではない。
殺気を発散させているわけではない。
足幅を少し広げて手を腰下で組んでいる。
佇む姿は、とても穏やか。
その存在は、大きさと強さを感じさせる。

端的な表現は、オーラ。
彼の内面から湧き出る輝きが見る者に衝撃を与えている。
白石の実績のみならず彼の持つエネルギーが光榮高校野球部にも伝播したのだ。
驚きは、部員たちの素直な反応だった。
優勝を狙える。

2012年4月6日金曜日、新学期が始まった。
光禜高校の部員数は、3年生34人。
2年生43人。
新入部員が78人。
総数155人となった。

「今日は、新入生も含めて全員の体力測定をする。」
監督が号令をかける。
「まず50m走から。」
「その前に各自準備をすること。」
「後は、マネージャーの指示にしたがい順次こなしてゆくこと。」
「10分間に始めま~す。」
グラウンドには既に50mの直線コースが出来ている。

2019年1月1日火曜日

ブログ毎日更新中止 小説創作宣言

2019年の元日。
あれ、元旦?
どっちだった?

一年の最初の日は、元日。
その午前中を元旦。
何回繰り返せば正解が出せるのか。
覚えないは、不要な情報である証?
否、脳みそ襞ひだの緩みのせい。

とにかく2019年の始まり。
今年のGGは、ないのもねだりの年にしようと思う。

強請ると書いてねだる。
ゆするとも読む。

ゆするの漢字がねだると同じだったなどとは、初めての知識。

つまりは、かわいい孫が自転車が欲しそうな顔をする。
ジージやバーバは、自転車屋で物色を始める。

孫のあの羨ましそうな顔は、ゆすり行為だということなのか?
嬉しそうに物色するあの年寄りの顔は、ゆすられている顔なのか。



生憎孫は持たない
GGではある。
が可愛さにつられて
家の玄関に置くことにした
12cmのベビィシューズ。



広告