朝、顔を洗う。
子供の頃の冬の事。
自分が使った湯たんぽのお湯を使った。
湯たんぽから湯を洗面器に注ぎ入れる。
洗面も兼ねていた流し場は、屋内だが凍てついていた。
吐く息で布団の襟が凍ることもあるのだから
板の間の台所が、寒いのは当たり前。
衣服をしっかり賄っても体温の上がりきれていない身体は、固く縮こまっている。
洗面器の中に手を入れる。
湯温は、優しくて柔らか。
まだ眠りの森を抜け出ていない朦朧と
固まった体は、静かにゆっくりと溶けてゆく。
とろり溶解してゆく身と心。
幸せの至り。
今でもその光景を思い出す。
ところで湯たんぽのたんぽとは?
たんぽとつく物にきりタンポがある。
たぶん由来は、一緒だべな。
時代小説によく出てくるたんぽ槍がある。
日本刀の手入れにつかうたんぽもある。
この辺りが語源か?
調べてみる。
WikIpediaよれば版画の道具が始まりやしい。
布を丸めそれをさらに布で包む。
中国由来の名称。
打包と書いた。
ダボウと発音するらしい。
タンポと聞こえなくはない。
で、日本では丸めたものをたんぽとした?
きりたんぽ、切られる前はタンポと呼ぶらしい。
そこからさらに
疑問の芽が出た。
女性の生理用品タンポン。
英語他、横文字にTamponがあるらしい。
Wikipediaeによれば4000年前から存在が確認されているという。
想像するに打包と同様に丸めたものだったに違いない。
漢字は、紀元前2500年頃から始まったそうな。
とすればTamponが打包より先なのだろうか?
そこは、判らない。
が、何かしらの関係があるのか?
「雪ぐ」という読みを初めて知る。
雪の熟語に雪辱がある。
辱はじをそそぐの意味になる。
雪ぐは、そそぐと読んでいる。
同じ意味で濯ぐもある。
その違いは?
甲骨文字を見る。
寒さで変化した雨が羽をつけたようにふわりと降っている様を形にした。
地上に舞い降りて一面を白く装う。
このことから雪は、掃除をされた状態に見える。
そこで雨に彗ほうき。
彗が略されてヨで雪となる。
濯は?
二羽の鳥が水の中で羽を広げた様子。
それを洗濯している意味に当てた。
走った後、暖かな時期ならシャワーを使う。
冬だと汗の量が少い。
しかも乾燥した中。
走りの毎回にシャワーなどなし。
が、足の裏が気持ち悪い。
で、昨冬から朝、顔を洗うついでに足も洗う。
足裏がなぜこれほどヌメッとして気持ちが悪いのか?
多量の汗のせいだという。
多量って?
動物は、足裏に滑り止めの汗を出す。
人間とて同じこと。
その量は、多い時で一日200cc程度だという。
コップ一杯の量。
これは多い。
水分だけでなく脂質やタンパク質も含む。
それは、蒸れて雑菌を繁殖させる。
夜は、洗わなくていいのか?
眠りに着く時は、靴下を脱ぐ。
足は、開放される。
開放の気持ち良さから悪さが消されている。
起きた時にそれに気がつく。
洗面台に足を上げ乗せる。
冷たさを回避しようと極細い水流でやってみた。
水が、足の甲を伝う。
僅かな冷たさが心地良い。
水を当てながら両の手で指股、足裏を擦り洗う。
洗顔も水のみ。
汚れの幕が一枚と蹴落とされる。
その行為が、日めくりにも似ているな。
とも思う。
さあ、今日の始まる。
僅かに高揚する。
足で思い出したことがある。
親父の足裏の匂いが好きだった。
コッペパンの匂いがした。
股関節は、軟らか。
だが自分の足裏の匂いを嗅ぐまでには引き付けられない。
女房に確かめてもらう。
「これがコッペパンなのかなぁ?」
俺の親父を知らない女房が判別のしようは無い。
だが、微かに匂ってはいるようだ。
手の指に足裏をこすりつけて嗅いでみた。
僅かながら、本当に微かに親父の匂いが脳内で合致した。
これも幸せ。