2019年3月19日火曜日

小説 Lugh ルー 5

「おはようございま~す!」
早朝ゴリと戸田さんが一緒に現れた。
戸田さんの家は、こことゴリとの中間になるらしい。
昨日送って行きゴリが朝迎えに行くことになったのだという。
これ以上ない笑顔のゴリ。
バイクを用意している間に母が外に出て二人に挨拶をしている。
「おひさしぶりです、おはようございます、
昨日は、ルー先輩におごってもらいました。
ごちそうさまでした。」
戸田さんは、処世術も心得ているようだ。
ゴリも続いて「おはようございます、隆士です、よろしくお願いします。」

「気を付けてね、いってらっしゃ~い。」
運動クラブを経験した者の共通の習い、挨拶ができること。
「いってきま~す。」三人の声。

「白幡山の入り口までは、抑えて足温っためま~す。
「はい、了解しました。」
「ウィ~ス。」
羊が丘通りからホーマックの交差点を右折して厚別滝野公園通りに入る。
極緩い登りが続く。
僕が先頭を引く。
ゴリ、戸田さんと続く。

山の稜線が次第に鮮明になってくる。
夜から昼へ繋がるまだおぼろげな時間。
一日の始まり。
世の中が動き始めようとする時間。
スプリング・エフェメラル:春の妖精が咲く季節、
僕たちは、走っている。















筋肉の要求に応えて心拍が徐々に上がる。
呼吸に若干の苦しさが現れる。
酸素不足。
心肺機能が、運動に適応していない状態。
身体がまだ運動のスィッチに切り替わっていない。
デッドポイントというらしい。

運動量を落とさず持続させる。
暫くすると呼吸が楽になる。
セカンドウィンドーが開くと表現するらしい。
であればウィンドーが閉じるとは、亡くなる時のことだろうか?
父の両親は、どちらもすでにウィンドーを閉じている。
父が小学5年生の時祖父が亡くなる。
その後祖母が父を育ててくれたと聞いている。
僕は、その祖母も知らない。

兄に言わせるとこの一段上にランナーズハイが存在するらしい。
どこまでも走っていられる気がしてくる。
自然に微笑んでいるらしい。
涎まで垂らそうかというほど気持ちが良くなるのだという。
脳内麻薬が分泌した状態。
僕はまだその感覚を知らない。
でも走っているときの爽快感は、特別。
それだけで十分に楽しい。


白旗山入り口を過ぎてアップは、お終い。
「ここから上げま~す。」
「了解で~す。」
「ウィ~ス。」
ゴリと順に先頭を引っ張り合う。
戸田さんが難なく着いてくる。
「戸田さん,いい走り。
「せんぱ~い、さん付け止めてくださ~い。」
「なんと呼べばいいの~?」
「とんだ~がいいです。」
「ゴリ聞いた~?、とんだ~と呼んで欲しいって。」
「ウィ~ス」
考えたら僕とゴリは、40Lリュツクを背負っている。
彼女は、空荷。
そして二人の後ろだと空気抵抗が少ない。
それでなくても軽量だから登りは、得意。
だとしてもやっぱり相当の脚力を持っている。

2019年3月10日日曜日

超短編小説 ポーカー

鳥人と化した男
どれだけ気持ちが高ぶっていたのだろう。
跳んで、飛び上がろうとした。
その上にある渦の中に。
歓喜の渦の中に飛び込もうとした。
跳んで飛び上がった。








銀色の陸のクジラ
札幌ドームで
披露された
ポーカー






飛び越えた壁の高さは、3mに近い。

空の中で羽がないことに気が付いた。
懸命に腕でもがいてみた。
足を泳がせてみた。
跳んだエネルギー以上の浮力は、生まれてこない。
俺は、鳥ではなかった。
コンクリートの床が急激に迫ってくる。

ならば豹に戻ろう。
しなやかなネコ科の大型動物、豹になる。
そうだ、俺は豹だった。
俺は、豹。
人の姿を借りた豹。

俺の潜在能力を2万人の前で披露した。
観客は、歓喜し悦の大きな渦を作っていた。

コンクリートに全身を叩きつけられる寸前に両の足を着地させた。
飛躍して落下したエネルギーは、消化されていない。
次に手を着けた。
そして膝も着けた。
そこは、冷たいコンクリートの床。
なのに優しく柔らかに暖かく感じた。
胎児の自分が蘇る。
心地よい。
2万人の手の中だった。
この世ので最高の幸せを味わっていた。
誰かが呼びかけている。
俺の名前を呼んでいる。
俺は、目覚めた。
アンデルソン・ジョゼ・ロペス・デ・ソウサ、これが僕の名前。

2019年3月9日、北海道コンサドーレ札幌のホーム第一戦。
武蔵が譲ってくれたPKで俺は、開放された。
窮屈な縛りから解放された。
野に放たれたしなやか肢体を誰も止めることはできない。
イタリアでは、ポーカーと言う。
カードゲームの4カード。
俺は、俺を認めてくれたこの寒い街札幌シティのチームで
ポーカーと呼ばれる1試合4得点の1番目の選手になった。

ポーカーは、J1リーグ通算では、233人目。
コンサドーレ札幌では、初めての選手となった。

2019年3月5日火曜日

小説 Lugh ルー 4.

約束の時間にショップ到着。
ゴリは、すでに来ていた。
サイクルジャージは、ショッキングイエローのコンビネーション
少し照れ臭そう。
シューズもヘルメットもグローブも黄色
ヘルメットにピンクのリボンは、・・なし。
当たり前だよね、僕の妄想だもんね。
パンツは、黒短。
スポーツグラス意外は全部新品。
輝いていた。

「ゴリ、格好いい!」
「そうだべか?
でもチョット恥ずい。」
まんざらでもない顔をしている。

傍にアクセサリーを取り付け終わったバイクがある。
ギァチェンジとピンディングの着脱を教えてもらったという。
ハンドルバーテープも黄色。
僕のバイクに比べるとこじんまりして見える。
サドルの後ろに小型バックもついている。
「中に何を入れた?」
「スペアチューブとタイヤレバー、
それからパンク修理セット。空気入れは、フレームにセットした。
「パンク修理をしたことはある?」
「ない」
「練習しておいた方がいいよ。
今日適当な場所で1回やっておこう。」
「ありがとう。」
今日は、走りやすいルートにしようか。



















道端の雪が完全に溶け切れていない場所が点在している。
国道36号線は、雪がないけれど砂利の清掃ができていない。
冬に撒かれる滑り止めの粉石が道の端に追いやられて溜まっている
春になると順次清掃回収されて、
埋め立てしたり乾燥させて再利用したりする。
そうだ西輪厚がいい。

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