2019年7月10日水曜日

小説 Lugh ルー 13

「俺どーして脚が止まったの?」
1.ハンガーノック
「高速走行は、エネルギー消費半端ないよ。」と高橋君が言っていた。
調べてみた。
高速走行では、1時間1000kcalと書いているサイトもあった。

井村屋のえいようかん60gが1本171Kcal、
餡の入った大福で1個130Kcalくらい。
となると好みだけで選ぶのではエネルギー切れ止む無しとなる。
他を考えなければいけない。

2.スタミナ切れ
早坂先輩は、「筋肉疲労の蓄積でスタミナ切れを起こしたんだな。」
今までは、楽む走りをしていた。
ある程度の長距離をこなせるけれど
あの速度を維持させる持続力が必要になる。

「万字峠までの走りは敢闘賞もの。初めてであそこまで走れない。」と三岳先輩。
つまりは、まだまだと言われている。
今まで同じ年代とスポーツで競って負けたことがない。
自分に腹が立つ。

しかし、どうすればいいのだろう?
どんなトレーニングが有効だろうか?

ポジショニングは?
僕は、お下がりのバイクに乗っている。
兄より背が高いのでサドルは高くした。
そのサドルやハンドルの位置は、適正なのだろうか?
まずは、そこから。

バイシクル札幌の南海さんに相談してみることにした。

















「より速く走りたいんです、フィッティングお願いします。」




「ロードバイクに乗り始めてどのくらい?」
「小学校の時は、母のを借りていました。
中学の時から父のを借りて乗っていました。
その頃は、兄と走っていました。」
「このバイクは、兄のお下がりで高校に入ってからです。」

光榮高校の自転車競技部と万字峠まで走った話をした。
「鎖骨骨折でピッチングが出来ないので、野球は休止中なんです。
時間はあるんで下半身の強化を兼ねてトレーニングをしようと思っています。
まずフィッティングから見直しをしたいんです。」

「解りしました。
白石君には基本もう一サイズ上のフレームがいいのですが、
今は、このバイクでと言うことですね。
光榮早坂君は、全国的に注目の選手です。
彼と走ると上達が速いでしようね。」
「へぇ、学校のエースだとは聞きましたが全国区なのですね。」

まずは、ピンディング交換です。」
「はい、・・」

「現在のSPDピンディングでは足裏全体の荷重ができません。
踏んでいるときに母指球辺りの一点だけに負荷を感じるはずです。
「はい。」
「親指から小指までの全体を使えたほうがいいですね。」
「はい。」
「足の横幅全体が使えていないということは、
筋肉も使えていない部分があるということになります。
それでは、100%のパフォーマンスに繋がりません。
シマノならSPDのSLにしましょう。」
「凸デコっと大きなクリートですね。」

通学の時はどうしよう?
毎日ペダルを交換するのは、面倒。
スニーカーを持ち歩くか。
野球用具を持ち歩くことを考えればどうということはないか。


両親にフィッティングに行くことを伝えた。
その料金と必要な装備にお金がかかる。
お年玉を貯金していた。
それを使うとも言ってある。
SL用のシューズ&クリートも必要になる。
ピンディングと合わせて約2.5万円。
速くなるために致し方なし。

クリートは、三段階あるという。
「どう違うんですか?」
「先端の幅に違いがあります。
赤は、広くて固定された時に左右の遊びがない。
黄色は、狭くて左右の遊びができる。
ブルーは、その中間です。」
「左右の遊びのあるなしはどう作用するのですか?」
「固定力の強さの違いです。外しやすいかどうか。」
「でも遊びがあると力も集中しないということですね。」

「もともとより効率的なペダリングを要求される
ツール・ド・フランスのために開発されました。
赤クリートは、その中でも一番無駄なくペダリングをすることができます。」

「ダンシングで足首の負担も関係します。」
人間の足首は、ある程度の稼働域を持っていますので
先端が固定されていても対応します。
ただ、脚に湾曲があると問題がでてきます。
特に日本人は、湾曲している人が多くいます。」

「脚の真っすぐ具合でクリートを選べばいいのですか?」
「そこは、違う対策になります。
湾曲しているとペダルに対して靴裏が並行になりません。
上下運動の時に膝に捻れが生じて膝しっ痛につながります。
そこでクリートの角度調整が必要になります。
クリートをより固定できる赤にしてクリートの左右高さを調整します。」
「インソールですか?」
「それもありです。クリートとシューズとの間にスペーサーを挟んで
調整する方法が簡単ですし微調整も容易にできます。」
「解りました。」

「角度というのですが、フィッティングで判断していきます。」

僕の足に合わせてクリートを取り付け。
ペダルを交換してフィッティング開始。

スタンドに固定したバイクに乗る。
「ブラケットを握ってペダリングしてみてください。」
「次は、下ハンで回してください。」
ヒモを吊るしたスタンドをペダルの中心にセットした。
南海さんは、前から、横から後ろから観察している。

「脚が長いなぁ、日本人の枠を完全に越しているね。 
ケイデンスをMAXで回してください。」


「サドルを上げるそして後ろにずらします。
これでペダルにより荷重がかかります。
平坦では、後輪への荷重が強くなりますからスピードを出しやすくなります。
もう一度乗ってください。」
「ハンドルが遠く感じます。」
「高くした分、ハンドルが遠くなりました。
でももっと前傾姿勢にした方がいいでしよう。
ハンドルを下げます。」
そして乗る。

「下ハンで速く回してください。
どうですか?」
「今まで膝が胸に当たるような感じだったのですが脚の上りが楽になってます。」
「より前傾にしましたが胸から腹の空間を作りました。
回しやすいくなり空気抵抗もぐっと減少します。
出力が30Wくらい上がるかもしれません。」

「出力って大掛かりなマシンで測定するんですよね?」
「今は、パワーメーターを取り付ければいつでもデータを確かめられます。」
「どのくらいするんですか。」
「色々ですが10万円からという感じですね。」

「パワーメーターがあると走りのデータが数値で比較できます。」
「速度で比較しない?」
「風の影響とか大きいでしょう。」
「そうですね、同じ道でも10km/hくらい簡単に違ってきます。」
「それがパワーメーターだと外部の影響に関係なく
自身の数値として確認でき比較も適正と言うことです。」
「うわぁ、欲しい。でも予算が厳しいから棚上げですね。」
「今は、感覚重視で自分の筋肉に常に意識を向けているといいですね。」

「レースに使うマシンは、カーボンですよねぇ。」
「そうとも限りません。超軽量のアルミ製があります。
ホィールやハンドル、ポ-ルシート、サドルは、カーボンにして
衝撃吸収性を向上させ軽量化させることもできます。
今のバイクを計ってみましょう。」

「公道を走るためのパーツは、そのままで12kgと少しです。
超軽量アルミフレームで8kg台までに落とせますね。
「じぁカーボンフレームとほぼ変わらない軽さになるわけですか。」
「上には上がありますから一概にはいえませんが
匹敵する重量までもっていけるってことですね。」
「だとしてどのくらいするのですか?」
「完成車でカーボンホィールを履いていない場合は、
そこにホィール代が加わって25万円くらいからでしょうか。」
「へぇ、そうなんですか。」
「クラッシュしてもフレームが破損しづらいアルミは魅力ですよねぇ。」

親におねだりできる値段じぁないな。
でも欲しいなぁ。
「次の一台の時の参考として覚えておきます。」

「クリートの角度を見ます。まずスタートの動作をしてください。」
右は、停止した位置からなので簡単に嵌められる。
左をブラインドで嵌めようとするとうまくいかない。
ペダルを確認しながらクリートを嵌め込む。
ペダルを回す。
垂直に垂らした糸をガイドに膝の位置を確かめている。
僅かですが上支で膝が外、下で内に捻じれますね。
角度を付けるスペーサーで調整します。

左に1枚、右に2枚入れました。
もう一度乗ってみてください。
クリートが嵌めやすくなっている。
「クリートがペダルと平行になったようですね。
回してください。」
「脚の骨に芯が通ったような感じです。」
「力が無駄なく伝えられている、膝の捻じれが取れましたね。」

「ただ左の臀部が僅かに下がりますね。
左脚が短いかもしれません。
左のスペーサが一枚少ないことでより左足の短さが現れるのでしょう。
脚の長さを測ってみましよう。
「左右の膝上・ひざ下とも大きな違いは無い様ですね。
では足の大きさは?」

外くるぶしから小指付け根までを比べてみた。
脚の大きさそのものではなく膝下関節のくるぶしと拇指の長さを比較。
左が2mm短くなっています。
この違いを埋めなければいけません。」

お店のオリジナルで黒ゴム製の2mmを左に挟む。
「これで回してみてください。」
「体のブレが無くなりました、自分のペダリングが正確になってます。
マシンになったようです。」

「これでトレーニングしてみてください。
ただ、体の違和感を覚えたらすぐに相談してください。
レベルの高いトレーニングをするほど
小さな違和感から大きな故障に繋がりますから。」
「はい、ありがとうございます。」

「ところでどんなメニューを組むんですか?」
「まだ決めていません。」
「では、パワー・トレーニング・バイブルという本があります。
これです。これを買って勉強するといいですよ。
パワーから見たトレーニング方法が書いてあります。
メーターを持たなくてもその考え方は、参考になるはずです。」

総額で4万円弱の支払いを済ませて店を出た。

バイシクル札幌からミューヘン大橋のコーチャンフォーに行って本を購入。
ついでに豊平川のサイクルロードを全力疾走してみた。
下ハンフォームが自然に卵形の姿勢になっている。
風圧が小さい。
重いギアで回してみる。
膝下の骨に強く力が掛かっている。
ハムストリングスの底まで負荷を感じる。
足幅全体に負荷を感じる。
腰から下が力強く正確に動いている。
「よしっ、秋までに早川さんを抜こう。」

走りを見てあげるから次の日曜日の朝5時に店前に来るようにと言われた。
4時間ほど走るのでその用意をしてくるようにとも言われた。

その朝、店の駐車場に着くと南海さんの他に4人が集まっていた。
小集団で走るのか。
バイシクル札幌のチームジャージを着ている。
「白石です、よろしくお願いします。」
4人は、20代から40代くらいだろうか。
ここでも「でかいなぁ!」と感嘆される。

「今日は、高校1年生の参加でトレイン走行します。
支笏湖線で支笏湖、そして千歳~店ゴールで約100km。
AV30KM/hです。」

14に続く

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